第二次世界大戦時ヨーロッパの小国はどのようにして中立を保ったか

自分たちの周辺で戦争が起こったとき、それにどう対応するかは難しい判断を迫られます。初めは静観するとしても、やがて自国にまで戦火が広がり、敵国に占領されるかもしれません。第二次世界大戦のとき、ヨーロッパ各国はドイツと連合国の戦いに巻き込まれていきました。スウェーデンの隣国ノルウェーは初めは中立を宣言したもののドイツ軍の攻撃に耐え切れず、ノルウェーに派兵していた連合国は撤退を余儀なくされます。その結果、ノルウェー国王一家と政府はイギリスに亡命し、ドイツに支配されることになりました。

その一方で、アイルランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコは最後まで独立を保つことができました。中立を維持できた国々は、戦争国に主に経済的な協力を行うことでかろうじて生き延びました。

”小国が行った経済的な譲歩には、商品や材料の取引、労働の提供、資本が含まれていた。これらの譲歩は、侵略の脅威が続いているにもかかわらず、交戦国が中立国の独立を尊重し続けるのに十分に価値があることを証明した。”

生き延びるための譲歩

第二次世界大戦中、中立を保った国々はドイツに様々な物資を提供していました。スウェーデンは鉄鉱石・ボールベアリング、スイスは時計・金属製品・機械、スペインは食物・鉄鉱石・タングステン、ポルトガルは皮革製品・タングステンと言った具合です。ドイツに物資の提供を約束することは占領を回避するための一つの手段となりました。

ドイツの侵攻が迫る中、その圧力をうまくかわした国にスウェーデンがあります。1940年にノルウェーとデンマークがドイツの手に落ちると、スウェーデンにも独立の危機が訪れます。スウェーデンはドイツに鉄鉱石やボールベアリング、工作機械などを提供していました。その一方で、スウェーデンはボールベアリングを密かにイギリスにも輸出していました。イギリスから漁船を装った船が行き来し、ドイツにばれないように大量の密輸を行っていたのです。スウェーデンは資源の乏しいドイツに戦争に必要な資材を提供することで独立を保ちましたが、その裏で連合国にも手を貸すことでドイツの力を弱体化させることを忘れていませんでした。

スウェーデンのSKF社が製造するボールベアリングは、ドイツとイギリスが戦争を行う上で欠かせない製品であった。

その当時、ドイツやイギリスのボールベアリングは故障率が高く、スウェーデン製のボールベアリングが必要とされていました。結局のところ、ドイツも戦争を遂行するためには自由貿易による資材調達に依存せざるを得なかったのです。

この他にも中立国はドイツに労働力を提供することを約束しました。例えばスペインはドイツに10万人の労働者を送ることを約束しますが、実際には1万人程度を送っただけでした。それでも国家間の約束はドイツに侵攻を思いとどまらせる上では効果があったのです。また、中立国はドイツやイギリスに貸し付けていた資金が未払いのまま積み上げられていくことを容認しました。ポルトガルではその額はGDPの28.6%に達しています。中立国は多くの資材をドイツやイギリスに提供しましたが、その代金をきちんを受けとっていたわけではないのです。

こうして見てみると、中立を保った国々も決して無傷で戦火を乗り越えたというわけでありません。経済的に大きな犠牲を払いながら、生き延びるためにドイツやイギリスに協力せざるを得なかったのです。しかし、大国同士の争いに巻き込まれたとき小国がどのようにして独立を維持したのかという歴史は、私たちに教訓を与えるものと言えるでしょう。