ハイヒールは男性のファッションとして始まった ペルシャの騎馬隊の装備が女性の性の象徴に変化するまで

女性が履くハイヒールは女性らしさを表現するファッションとして定着しています。しかしその歴史を振り返ると、もともと女性のファッションとして始まったわけではありません。最初にヒールを履くようになったのは中世ペルシャの騎兵隊だと考えられ、それがヨーロッパに伝わり現在に至っているのです。

”ペルシャとのつながりがヨーロッパ人に男らしさの空気を与えたため彼らは初めてヒールに惹かれたが、男性の衣服の要素を取り入れようとする女性のファッションの流行は彼らの使用がすぐに女性や子どもたちに広がったことを意味していた。セメルハックは「1630年代に女性は髪を切り、その服装に肩の装飾具を加えた」と述べている。「彼女たちはキセルを吸い、非常に男性的な帽子をかぶっていました。そしてこういうわけで女性たちはヒールを取り入れ、それは彼女たちの服装を男性化するための努力でした。”(明治大)

ハイヒールの起源は中世ペルシャ

今日、女性が履くハイヒールは女性らしさを表す象徴の一つと言えるでしょう。少なくとも男性がハイヒールを履くことはありません。しかし、ハイヒールの起源をたどると、もともと女性の靴として発達したわけではないようです。

フランスのルイ14世の肖像画にはハイヒールが描かれている。

ハイヒールの起源は中世のペルシャ(現在のイラン)であると考えられています。その当時ペルシャには強力な騎馬軍隊があり、乗り手が足をかける馬のあぶみの上で弓をひくときに体を安定させる目的でかかとの高い靴が用いられていました。やがてペルシャの文化は中世のヨーロッパに伝わり、ルネサンスの原動力の一つとなります。ペルシャの男性らしい力強い文化をヨーロッパの人々が真似するようになり、かかとの高い靴が貴族の男性を中心に取り入れられるようになります。ヒールは初めは男性のファッションとして始まったのです。この頃のヒールは現在の私たちが考えるハイヒールのようなものではなく、日本でウエスタンブーツと呼ばれているような、かかとの部分ががっしりしてやや高くなっているタイプのブーツに似ていました。

しかし、ヒールは一般大衆にまで瞬く間に広がったため、貴族階級の人々は一般大衆との違いを示すためによりかかとの高いヒールを履くようになります。これがハイヒールの誕生です。

ハイヒールは実用面で言えば極めて不合理なものです。歩くこと自体が困難で道路の段差やくぼみに足を引っかけることになります。舗装された平坦な場所でしかハイヒールで歩くことはできません。しかし、逆に言えばそれこそが貴族階級にハイヒールを広める理由となったのです。彼らのハイヒールは、彼らが舗装されていない道や長い距離を歩く必要がない高貴な身分であることを示す装飾具となったのです。

一方で、17世紀のヨーロッパは女性が男性的なファッションを取り入れる時代でもありました。その結果、女性もヒールを履くようになり、ヒールは男女に関わらず用いられるようになります。

しかし17世紀終わりごろから男性のファッションはより実用的なかかとの低い靴に変化していき、その一方で女性の靴はよりかかとの細いものへと変化していきます。なぜ女性の靴のかかとが細くなったのかについてははっきりしていませんが、男性たちが女性を社会にとって実用的ではない存在として見なしていたことの反映であると考える人もいます。少なくともこの時代では、ハイヒールを履く女性は教育レベルの低い人間として見下されていました。やがて18世紀に入ると、女性がハイヒールを履く習慣も消えてしまいました。

ハイヒールはメディアを通じて再生する

こうして一度は流行から消えたハイヒールですが、19世紀後半に女性のポルノ写真として復活します。その当時、フランスのヌードモデルの多くがハイヒールを履いていました。また二度の世界大戦においても、戦地に赴いた若い兵士たちがハイヒールを履いた女性のピンナップ写真を荷物に忍ばせていました。

1942年に撮影されたアメリカのベティ・グラーベルの写真は第二次世界戦中のピンナップ写真を代表するものである。

ハイヒールを履いた女性は姿勢を保つために独特な背骨のアーチを描くため、それが女性の性的な印象をより高めていると主張する研究者もいます。戦後のハイヒールはメディアと一般大衆の関係を通じて、流行と衰退を繰り返しながら現在に至っています。

ハイヒールは健康に悪い

ハイヒールは人間の本来の姿勢を阻害するため、関節を痛めたり血行が悪くなったりします。そのため、ハイヒールのような靴を市場に流通させるべきではないと考える人もいます。また、ハイヒールが表現する女性らしさは男性中心の社会がメディアを通じて作り上げた一種の洗脳であり、女性はその洗脳から解放されるべきだと主張する人もいます。

女性のハイヒールに限らず、真夏にジャケットを着ている男性なども社会によって押し付けられた不合理な慣習と言えます。私たちがハイヒールの歴史を知ることで、この問題についてより良い解決策を考えることができるようになるでしょう。