【数Ⅲ】複素数平面って結局、何? 目に見えない異世界へのアプローチ

複素数平面って何がしたいのかさっぱり分かりません。
複素数自体が現実目に見えない世界だから、なおさら分かんないよね。
それ意味あるんですか?
とりあえず説明していくから意味があるかどうかは後から考えてみようか。

ドラえもんの二次元ポケット

数直線を考えてみましょう。数直線は線が1本で出来ています。

ところでこの数直線上で複素数 $1+i$ を示す点はどこにあるでしょうか?おそらく、いくら考えてもこの数直線上で $1+i$ の点を示すことはできないでしょう。小学生のころからお馴染みの数直線ですが、実は数直線で示すことができるのは実数だけということが分かります。

現実の私たちが住む世界は縦・横・奥行の3つの軸で構成されています。いわゆる3Dの世界ということです。一方で数直線は軸が一つしかないので一次元の世界であると言えます。一次元の世界は前に進むか後ろに戻るかしかない、トンネルの中のようなとても窮屈な世界です。

そこで、数直線が実数しか表せないなら虚数を表す軸を加えてみましょう。軸が増えることで直線が平面になりました。これが複素数平面です。とは言え虚軸方向に広がる平面は現実の世界ではなく、あくまで想像上の世界です。

実在しないものを存在することにしたら、そこから空想膨らんで色んな設定が生まれたの。例えばドラえもんの四次元ポケットってあるじゃない?
ありますね。
あれは現実の世界が三次元だから現実に存在しない世界っていう意味で四次元って言ってるんだけど、複素数平面も現実に存在しない次元を加えているものなの。言うならば二次元ポケットってこと。
何か名前がショボくなりましたね。

見えないはずのものを見える化する

こうして実際には存在しないはずの複素数を平面上の点として表すと、複素数の様々な計算がグラフ上で表現できることが分かりました。複素数同士のかけ算はグラフ上では回転を表す、と言うのもその一つです。

とは言え、グラフ上で表せるっていうだけで原理が分かる感じでもないの。その辺が実数のグラフと違って、あくまで想像上の世界である所以だろうね。結局すっきりしないけど、グラフ上に表せるからとりあえずそれで納得しておくってのが複素数平面。

絶対値=長さの見える化

数直線に戻って今度は絶対値について考えましょう。数としてはマイナスの数からマイナス符号をとったものが絶対値だという言い方もできますが、これをグラフ上で説明するとしたらどうしますか?

説明は上のようになります。絶対値はグラフ上では原点からの距離に一致します。

そこで数直線に虚軸を加えて平面になったらどうなるでしょうか。

数直線と同じルールを適用することで、平面上でも絶対値が定義できました。

例えば化学で酸化ってあるじゃない?最初は酸素と化合することを酸化って言ってたんだけど、のちに化合物から水素原子が離れていくことも「酸化された」って言うことになって、元の定義が変わっていくよね。ここでも、絶対値はマイナス取ったヤツから原点からの距離に定義が拡張されていて、でもそのお陰で数直線以外でも絶対値が定義できるようになったってことなのよ。
あー、化学のその辺超ニガテ。
これやって意味あるの?って思うかもしれないけど、確かに実生活で直接役に立つような話ではないよね。でも、ここで習得したいのは概念のアップグレードなの。一つの概念を拡張することで、より幅広く物事を考えることでできる人間になることを目指すトレーニングだよね。

二次方程式の虚数解を見える化する

今度は二次方程式の虚数解をグラフ上に示してみましょう。

例えば、$x^2-4x+5=0$ の解は、公式を使って $x=2\pm i$ となります。$x^2-4x+5$ は平方完成すると $(x-2)^2+1$ となり、頂点が $(2,1)$ となるので、$x$ 軸と接することはありません。このようにグラフが $x$ 軸に接していないときに虚数解になるのでした。

この虚数解をグラフで表すとしたらどのようにすれば良いでしょうか?

二次関数 $(x-a)^2+b=0$ を考えてみます。これの解を求めると $b<0$ のとき

$(x-a)^2+b=0\\y=x^2-2ax+a^2+b=0\\\displaystyle x=\frac{2a\pm\sqrt{4a^2-4(a^2+b)}}{2}\\x=a\pm\sqrt{b}$

となります。これはグラフで表すと左の図です。

ここに、青のグラフを上下反転して90度回転させたグラフを青のグラフの下に書きます。オレンジのグラフです。

そして $b>0$のとき、方程式の解は $x=a\pm\sqrt{b}i$ となります。これは右のグラフで表されます。オレンジのグラフが$x$軸と虚軸で作られた複素数平面と交わる点が方程式の解です。こうして、複素数平面上に二次方程式の虚数解を示すことができました。

青のグラフが目に見える方の世界で、青のグラフが存在するとき目に見えない異次元世界にオレンジのグラフが同時に存在している。
見えないのに存在してるって何か納得いかない。

見えないけど、計算としてもグラフとしてもこれでちゃんと辻褄があう。だから、見えなくても存在しているって考えることができる。これも例えだけど、物質の陽子や中性子だって自分の裸眼で確かめた人なんていないのよ。でも、計算上存在すると考える他にないから存在するってことになっている。複素数の世界も同じようなもの。

ここで今回の話は終わりです。目に見えないものを考えるという作業はいくら追求してもすっきりしないものかもしれません。しかし、マクロな宇宙の世界やミクロな原子の世界など、私たちの手の届かない世界はいくらでもあります。私たちは複素数の世界を学ぶことでそうした手の届かない世界にアプローチするためのテクニックの一部を学んでいるのです。