女性は「産む必要がなくなった」から産まなくなった 世界の出生率の減少はなぜ起こったか?
今日、地球の人口は70億人を超え現在も増え続けています。人口過剰が地球環境へ与える悪影響が懸念される一方で、実際には先進国だけでなく途上国を含む世界各国で出生率が大幅に減少してきています。
”かつて人口統計学者たちは、ヨーロッパで見られるように人々が教育を受け経済的に豊かになったときにだけ女性たちは子どもの数を少なくし始めると述べていた。しかし、バングラディシュの女性たちについてはどうだろうか。世界で最も貧しい国の一つで、女子は世界で最も教育を受けておらず大部分は10代半ばで結婚する。それが今や彼女たちは3人の子どもを持つだけであり、彼女の母親の頃の半分以下である。インドはさらに少なく、2.8人だ。また、ブラジルの女性についてはどうだろうか。カトリックの揺りかごであるこの国において、女性たちは平均で2人の子どもを持ち、その数はさらに減少しつつある。(早稲田大)”
出生率は過去50年に渡り低下し続けている
世界の人口は現在でも爆発的に増え続けています。そして人口が増えるほど人間が地球環境に与える影響も大きくなり、このままいけば人類が破滅するまで人口が増え続けるように思えるかもしれません。
しかし実際には地球規模で見た場合、一人の女性が生む子どもの数、いわゆる出生率は過去 50 年間下がり続けてきました。ここに世界銀行による出生率のグラフを示しておきます。
具体的な数字を示すと、1965 年における世界の平均出生率は 5.1 でした。その後、1990 年に 3.3、2010年に 2.5、2016 年に 2.4 と変化してきました。一般的に、人口が同数で維持される出生率は 2.1 と言われるので、その値にかなり近づいていることが分かります。
そうは言っても、実際には人口の増加するペースはまったく衰えていないように思えるかもしれません。
出生率が低下してから実際に人口が減るまでにはかなりの時間差が必要です。例えば日本において統計上最も出生率が高かったのは 1949 年の 4.32 で、その後第二次ベビーブームを除けば出生率は一貫して減少してきました。しかし、日本の人口が実際に減り始めるのは 2005 年からです。出生率が減少する一方で寿命は長くなったので、人口が減少するまでに非常に長い時間がかかることになったのです。
現在の世界の出生率は、長期的に見れば人口の増加はいずれ緩やかになることを示唆しています。しかしそこから減少に転じるかどうかはまだはっきりしない状態です。
女性は「産む必要がなくなった」から産まなくなった
先進国だけでなく、貧しい途上国でも出生率は低下しています。中国は一人っ子政策を実施したことで人権の面で世界から非難を受けた国ですが、一人っ子政策を撤回した後でも出生率は下がったままだと考えられています。中国の出生率は 1960 年代には 6.0 前後だったのが、2016 年では 1.6 程度だと見積もられています。また中国人は華僑として世界中に分散していますが、外国に住む中国人の間でも出生率が低下しています。同じく人口の多いインドでも出生率は 1960 年代の 5.8 から 2016 年には 2.3 にまで低下しました。
こうして、先進国だけでなく途上国でも出生率が低下しているのは、子どもの死亡率が低下したためだと考えられています。ここで再び世界銀行のデータを見てみましょう。
データは比較的新しいものしかないようですが、世界の乳幼児死亡率は1990 年に 1000 人あたり 64.7 人でした。それが 2017 年には 29.4 人に減少しています。上の英文に登場するバングラディシュでは、1960 年に乳幼児死亡率が 173 人でした。つまり、およそ5人に1人の子どもが死亡したことになります。それが 2017 年には 27 人にまで減少していいます。
子どもの死亡率が低下した理由は医療や公衆衛生の普及です。かつて子どもの死亡率が高かった頃は、農地の受け継ぐ者がいなくならないように保険の意味で子どもをたくさん産んでいました。
農村において農地を引き継ぐのは男子です。もし子どもが男子1人であれば農地が引き継げなくなるリスクは高くなります。しかし子どもを産むとき、男子が生まれる確率と女子が生まれる確率は互いに 50 パーセントです。もしある両親が男子を2人産みたいと考えた場合、確率で言えば子どもを4人産む可能性が高くなると言えるのです。さらには男子2人を産んでもその2人とも死亡する可能性がある社会においては男子を3人確保する必要が出てきます。その場合、結果的に子どもを6人産むことになるのです。こうして、いくつかの貧しい地域では出生率が6人にまで増えることになります。
しかし、医療や公衆衛生が普及することによって子どもの死亡率は下がり、男子をたくさん産んで保険をかける必要はなくなりました。もちろんそれは衛生に関する教育の普及など、様々な複合的要因によって初めて可能になったことは言うまでもありません。
女性が子どもを産まなくなったのはその必要がなくなったからです。そしてこれは人類の歴史において初めての現象なのです。
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