マシュマロテストの理論は正しくない 経済格差が与える影響

マシュマロテストはスタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェルが1960年代から70年代にかけて行った実験で、人間にとって自制心が大切であることを私たちに教える有名なものです。

実験はこのようにして行われます。部屋にいる子供たちの前に皿に乗ったマシュマロを一つ置き、先生が「私が戻ってくるまでマシュマロを食べずに我慢したら、もう一つそれをあげよう」と言って部屋を出ていきます。しかし、一部の子供たちは我慢しきれずにマシュマロを食べてしまいました。実験の後追跡調査が行われ、マシュマロを食べずに我慢した子供たちは、その後の学業で優秀な成績を収めた事が分かりました。

自制心の違いは大人になってからも続くと考えられています。我慢することができない人間は給料をもらってもすぐに全部使ってしまうため貯蓄ができません。そのため長期的な金銭の支払いを必要とする住宅や自動車を手に入れることができず、経済格差が広がってしまうのです。

このようにマシュマロテストは自制心の大切さを示す事例として広く引用されてきました。

アメリカの教育番組のセサミストリートでは、クッキーモンスターが目の前に出されたクッキーをさまざまな戦略を用いて我慢します。この映像を見ればマシュマロテストのイメージがつかめるでしょう。映像の中で、クッキーモンスターは音楽で気を紛らわせたり、クッキーを生臭い魚だと思い込むことによって見事最後までクッキーを食べずに我慢することに成功します。また、途中で歌われる歌詞の Good things come to those who wait は「待つ者に幸あり」ということわざです。

研究者による再調査

しかし、2018年に発表されたニューヨーク大学の研究者テイラー・ワッツらの研究によると、マシュマロテストの結果は必ずしも正しいとは言えないようです。

研究者たちは以前の調査よりもサンプルの数を増やし、900人以上の子供たちに実験に参加してもらいました。その結果、以前の研究がある程度正しいことが分かった一方で、その子供の家庭環境や家庭の経済状況が大きく影響していることも分かりました。

家が貧しい子供たちは自分が欲しいものがいつでも手に入るわけではありません。その子供にとって甘いものが手に入るチャンスが少なければ、待つことはそれを失うリスクを高めます。一方で、経済的水準の高い家庭の子供にとって満足を遅らせることは大きな問題ではありません。例え目の前のマシュマロが手に入らなくても、この子供は家に帰ればもっとおいしいお菓子がいくらでも食べられるでしょう。

経済環境と親の態度の違い

また、親の経済的状況によって子供への接し方も変わります。インディアナ大学の社会学者ブレア・ペリーらの研究によると、低所得世帯の親は裕福な親に比べ子供にお菓子を買ってあげる可能性が高いことが分かりました。つまり、貧しい親は子供に簡単に手に入る小さな報酬を狙わせ、裕福な親は大きな報酬を狙うために子供に待つことを教えるのです。貧しい家庭の子供にとって大きな報酬を期待することには意味がなく、目の前の小さな報酬に喜びを見出すことで我慢することを覚えるしかないのです。

また別の調査では、子供が我慢をするかどうかは二つ目のクッキーが本当に手に入ることを信用しているかどうかを反映していることも分かりました。家庭が貧しかったり親の態度が不安定である場合、子供は二つ目のマシュマロが本当に手に入れられるかどうかを疑う可能性が高くなります。

こうした調査結果は、従来のマシュマロテストを完全に否定するものではありません。しかし、マシュマロテストは私たちの社会に貧富の格差が存在することを肯定する材料として存在してきたことも事実であり、これらの研究がむしろマシュマロテストで失敗した子供たちに注目すべきであることを促していることに注目すべきかもしれません。