テクノロジーの進化は排除の論理を暴走させる 台頭するナショナリズムを支えるデータ処理技術
21世紀に入って、ヨーロッパにおける移民排斥運動や右派政党の拡大に代表されるナショナリズムの台頭の問題が活発に議論されるようになりました。また、この現象はヨーロッパのものだけではなく、アメリカ・トランプ政権の自国優先主義や最近の日韓関係の悪化の背景でもあり、もはや地球規模の現象となっています。
そして、現代のナショナリズムの問題が議論されるとき、インターネットをはじめとするコンピューターテクノロジーの進歩との関係について考えることはもはや欠かせません。
”ナチスドイツの敗北後、IBMは南アフリカに目を向けた。IBMはそこで数十年にわたって、南アフリカの国民の分類と差別を支援するコンピューターテクノロジーを提供し、南アフリカ黒人の分離と容赦のない征服のために通帳の製造やデータベースストレージの設計を行った。”
データ処理に革命をもたらしたパンチカードシステム
およそ100年前、アメリカのチャールズ・ダベンポートは1910年にコールドスプリングハーバー研究所の所長となり、ある民族が他の民族よりも遺伝的に優れていることを主張する優生学という学問を推進しました。彼の指導の下で1928年にジャマイカで白人と黒人の混血の人々について調査が行われ、混血の人々は生物学的・文化的に劣っていると主張されました。
この調査ではジャマイカの人々に関する大量のデータを処理する必要があったのですが、その当時データ処理に威力を発揮していたのがパンチカードシステムで、市場で大きなシェアを誇っていたIBMのシステムがデータの集計処理において大活躍することになります。
パンチカードシステムは19世紀末に大量の移民の流入で人口が増加したアメリカの国勢調査で活躍したことが知られています。それまでの手作業による集計に比べ大幅に作業時間を短縮することができるようになり、その後様々な分野に応用されることになります。やがて、パンチカードシステムの製造・販売はIBM社の母体となっていきます。
テクノロジーの進化は排除の論理を暴走させる
上の英文でも紹介した通りなのですが、その後もIBMの技術はナチスドイツにおけるユダヤ人迫害や南アフリカにおける黒人隔離政策でも活躍し、膨大なデータ処理を通じて国民を管理し、国民とそうでない人々を容易に識別することを可能にしてきました。
現代社会においても、IBMをはじめとするハイテク企業は監視カメラを通じた顔認識技術を国家に提供しています。その技術自体は国民に安全を提供していると言えるでしょうが、そうでない人々を排除することが技術的にますます容易になるほど、排除の論理が暴走しやすい環境が生まれているとも言えるのです。現代の私たちは、昔よりもずっと簡単に誰かを社会から排除できるようになっていること、またその背後にコンピューターテクノロジーの進歩があることは知っておくべきでしょう。
この問題は決して今に始まったことではなく、IBMの歴史はコンピューターテクノロジーとナショナリズムの関係に長い歴史があることを示しているのです。
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