ゾウの脳はなぜ大きいのか? 気候変動と脳の大きさの関係

ゾウは人間よりもはるかに大きな脳を持つことで知られています。その脳の大きさにあわせて優れた記憶力や仲間をいつくしむ能力などがあることも知られ、そのことがゾウを一層魅力的な動物にしています。その一方で、優れた知能を持つゾウの脳がどのように発達したのかはあまり知られていません。

”象は非常に大きくなったという事実に助けられた。大きくなることでまったく新しい長所の世界が広がる。捕食者を阻み、食料資源と水が不足しているときには、大きな体はより多くの脂肪と水を貯えることができ、より大きな腸でより効率的に食物を消化することができる。私たちは、脳の大きさは体の大きさ緊密に共進化することを発見した。これは、大きな体の進化は大きな脳と無関係ではないことを示唆している。ゾウの大きな脳は、行動の柔軟性を高めるためだけでなく、大きな体とともに進化した可能性がある。”

ゾウの優れた記憶力

ゾウは優れた記憶力を持ち、その能力はサバンナの厳しい環境で生き残る上で重要な役割を果たしています。

ゾウの記憶力を示す有名なエピソードがあります。あるときサバンナで雨が少ない年があり、水が枯渇しました。そのとき、水が湧き出る場所を記憶していた年長の群れのリーダーが群れをその場所に誘導して難を逃れたのです。同じようなことが起こったのは数十年も前のことであり、周辺の水が枯渇したときでも水が湧き出る場所を覚えていたのはそのメスのリーダーだけだったのです。

気候変動がゾウの脳を発達させた

ゾウの祖先と言える生物が登場したのはおよそ4000万年前のアフリカ北部です。

Moeritherium NT small

4000万年前のゾウの祖先は今よりもずっと小さな生き物であった。

学名モエテリウムは、今のゾウとはかなり姿の異なる動物で、鼻は短く今のゾウよりもずっと小さな生き物でした。

ゾウの祖先についての化石記録は豊富で、その脳はおよそ2600万年前と2000万年前に大きくなったことが分かっています。

2600万年前に南極大陸が凍結したことによって、アフリカの熱帯雨林はサバンナと砂漠に変わったと考えられています。また2000万年前にはアフリカ大陸と現在の中東地域が陸続きになりました。それまで現在のサウジアラビアとイラクの間には大きな海峡があり、アフリカはユーラシア大陸と切り離されていました。しかし、二つの大陸が陸続きになったことにより、ライオンの祖先のような捕食者を含む動物たちが中東地域からアフリカ大陸になだれ込んできたのです。

こうした気候変動がゾウの脳を巨大化させました。おそらくゾウの仲間はこうした過酷な条件の中で多くが絶滅し、脳が発達した一部の種だけが生き残ることができたと考えられます。脳が大きくなることにより、必要な食料や水を得るための知識が豊富になり、仲間同士で協力し合うことで捕食者の攻撃に対抗することができるようになったはずです。

身体の大型化と共に脳は発達した

しかし、ゾウは脳だけが大型化したわけではなく同時に身体も大型化しました。身体の大型化は捕食者の攻撃を避け、多くの栄養分を体内に蓄えることで不安定な食料事情に対応する能力を強化しました。それに比べて人間の場合は、身体の大型化を伴わずに脳だけが大型化したので、人間とゾウの脳の発達のプロセスは同じではないと言えます。

ゾウの脳の発達は「卵が先か鶏が先か」という類の問題を含んでいます。脳が発達して生存率が高まったがゆえに身体が大型化したのか、身体が大型化したがゆえに脳が発達したのか、今のところ結論は出ていません。

いずれにしろ、ゾウの脳の発達プロセスは人間とは異なったものであり、その道筋も一通りではないことを示しています。脳の発達についての複数のプロセスが解明されれば、私たち自身の脳についての理解がより深まるかもしれません。